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鹿児島・公衆浴場が危機 中東情勢で「部品不足」「ガス代1.5倍」営業維持が困難に
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鹿児島・公衆浴場が危機 中東情勢で「部品不足」「ガス代1.5倍」営業維持が困難に

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シャワーの部品が注文しても揃わない。ガス代は前月の1.5倍に跳ね上がった。かつおぶしさえ手に入りにくくなっている。遠い中東の情勢が、鹿児島の「温泉文化」を支える公衆浴場の経営を、じわじわと、しかし確実に追い詰めている。

鹿児島市の中山温泉。開店前の午前8時過ぎ、店長の西田賢作さんは静かな浴場の中で設備の点検に当たっていた。利用客の目に触れるのは湯船やシャワーだけだが、その裏側では、原油由来の原料を使った無数の部品が温泉の「使い勝手」を支えている。

「温度調整、出る止める、プッシュボタン。見えてはいないけど、中にたくさんのパーツが入っている。定期的に交換しないと利用できないところが出てきたりする」と西田店長は言う。

中山温泉のシャワーは男女それぞれ21基。夏は1日300人、冬は1日600人が利用する。これだけの規模になると部品の消耗も早く、十分なストックを確保しておきたいところだ。ところが、中東情勢を背景に原油由来製品の供給が滞り、注文どおりに部品が届かない事態が続いている。

「『これだけください』と言っても、その半分しか来なかったりする」

必要な数が揃わないまま日々の営業を続けるという、ぎりぎりの綱渡りが常態化しつつある。

部品だけではない。中山温泉では源泉の温度を保つためにガスを使用しているが、4月の料金は前月比1.5倍に達した。燃料費の急騰は経営を直撃する。

さらに深刻なのがバックヤードの問題だ。温泉を浴場へ送るためのパイプは、温泉成分によって徐々に劣化する。2026年の夏に一部交換を予定していたが、そのパイプ自体が入手困難となり、工事の目処が立たない状況に陥っている。

「漏水して送れなくなってしまったとなると、営業そのものができなくなってしまう」
西田店長の言葉には、単なるコスト増への嘆きではなく、「営業継続そのもの」への不安がにじむ。設備が機能しなければ、どれだけ常連客がいても扉を開けることができないのだ。

こうした状況は中山温泉に限らない。県内の公衆浴場が加盟する組合は、大人の入浴料を現行の460円から500円に引き上げるよう県に要望することを決めた。40円の値上げは小さく見えるかもしれないが、その背景には設備維持コストの全面的な上昇がある。

値上げ要望について、西田店長は複雑な胸の内を明かす。

「経営として考えれば値上げはありがたい話だが、お客さんが一日置きになったりとか週末だけになったりとか懸念はある」

公衆浴場は地域住民の日常的な生活インフラでもある。値上げによって利用頻度が落ちれば、経営改善どころか客足離れという新たな問題を招きかねない。

温泉施設内に併設する食堂にも影響は及んでいる。6月からメニューを見直す旨の案内が店内に掲示された。食材全般の値上がりに加え、食堂の味の要となる枕崎産のかつおぶしも、中東情勢の余波を受けて手に入りにくくなっているためだ。

枕崎産かつおぶしは鹿児島ならではの地元食材であり、その調達が困難になるという事態は、地域の食文化との結びつきという面でも見過ごせない変化である。温泉に、食堂に、設備に。施設に関わるあらゆるものが値上がりし、あるいは調達困難となっている。

西田店長は、これまでの経営危機と今回を比較してこう語る。

「コロナの時が一番きつかったけど、今回は国や行政からの補助があるわけではないし、値上げもそうだけど資材がない。私も過去に体験したことがないので、さらに下っていくきつい状況になる」

コロナ禍には国や行政からの支援策が用意されていたが、今回の物資・資材不足には公的なセーフティネットが見当たらない。経営者が孤独に対処せざるを得ない構造が、事態の深刻さをさらに増している。

先行きが見えない中東情勢のもと、鹿児島の温泉経営への影響は日々深刻さを増している。地域の日常を支えてきた公衆浴場が、この試練をどう乗り越えていくか。その行方は、利用者である地域住民にとっても無縁ではない。