鹿児島市サッカースタジアム、候補地を「鴨池庭球場」に絞り込み 整備費78億円削減・2年前倒しで優位性
📰 全文
鹿児島市が整備を目指すサッカースタジアムをめぐり、大きな動きがあった。市当局は候補地としていた2カ所のうち、県立鴨池庭球場に絞り込む方針を明らかにした。整備費を78億円抑えられ、使用開始も2年早められるという判断だ。一方で、当初掲げていた「稼げるサッカースタジアム」の目玉だった複合化は断念。「まちなかスタジアム」「多機能複合型スタジアム」という言葉の前提が崩れたとも受け取られる今回の方針転換に、市議会からも率直な疑問の声が上がった。午前9時前の鹿児島市役所。市議会の議長室に各会派の代表者が集まる中、下鶴市長自らが姿を現した。約30分にわたって開かれた会合は非公開だったが、市長はサッカースタジアムへの考えを自らの言葉で説明したという。常任委員会を前にこのような形で会合が行われるのは「極めて珍しい」とされており、今回の発表がそれだけ重みを持つものであることが伝わってくる。
その後に始まった市議会常任委員会の冒頭で、当局から候補地の選定結果が正式に報告された。
市の観光交流局・児玉博史次長は「県立鴨池庭球場の敷地などを候補地として検討を進め、鹿児島サンロイヤルホテルの敷地などは検討対象から除外する」と明言した。
候補地はこれまで、鹿児島サンロイヤルホテルの跡地と県立鴨池庭球場の2カ所が挙げられていた。鴨池庭球場に絞り込んだ理由は大きく二つ、「費用面」と「時間軸」だ。
まず費用面では、サンロイヤルホテル跡地の整備費が293億円であるのに対し、鴨池庭球場はもともと市の土地であるため土地取得費がかからず、整備費は215億円と78億円の削減が見込まれる。
時間軸の面では、サンロイヤルホテル跡地では使用開始が2038年と想定されるのに対し、鴨池庭球場なら2036年と2年早く使い始められる計算だ。費用でも時間でも鴨池庭球場に優位性があるとして、絞り込みに至った。
整備後のイメージ図によると、新スタジアムは白波スタジアムや鴨池補助競技場に併設した形で整備される計画だ。また、現在の鴨池庭球場のテニスコートは川商ホールの近くへ移設される予定となっている。
今回の方針で大きな焦点となったのが、スタジアムの複合化の断念だ。市はこれまで「稼げるサッカースタジアム」として、商業施設などを併設し試合のない日でも集客を図る複合型の整備を打ち出していた。しかし今回、限られた敷地の確保が難しいことや整備費の縮減を優先する観点から、複合化を「検討しない」と明言した。
市議会では池山美月議員がこの点を率直に問いただした。
「『複合化』は断念ということでいいか?」
スタジアム担当課長の平良和也氏は「私たちとしては『検討しない』ということで、議員がおっしゃっているのと同じ意味」と答えた。
これを受けて池山議員は「そうなると、これまでうたってきた『まちなかスタジアム』『多機能複合型スタジアム』はもう(前提が)崩れたということか」と畳みかけた。平良課長は「『多機能複合型』という言葉については今回の複合見直しにあたり、再度検討しなければならない」と述べるにとどめた。
当初描いていた"稼げる"スタジアムの姿が変わる中で、試合のない日にどう集客するのかという課題は積み残されたままだ。
複合化の断念以外にも、計画には課題がある。テニスコートを川商ホール側へ移設することで、ホールの駐車場が60台削減される見通しだ。周辺の交通や利便性にどう影響するかについては、引き続き検討が必要とされている。また、移設先が海岸により近づくことから、テニスプレーヤーにとっての環境変化も気になるところだ。
候補地が一カ所に絞り込まれたことについて、各方面の反応が出ている。
下鶴市長は「整備に向けた大きな節目と考えている。市の考えを県に伝えたい」とコメントした。
塩田知事は「鹿児島市で考え方を整理した上で、県にも説明があると考えている。市の説明や県議会での議論を踏まえ、今後の対応を検討していきたい」と述べており、県との協議はこれから本格化する見通しだ。
鹿児島県サッカー協会の川畑佑樹会長はより早期の整備が可能な庭球場の選択を歓迎し、「色々な関係機関と協議しながら議論深められたら」と前向きな姿勢を示した。
鹿児島ユナイテッドFCの徳重剛代表は「現在のスタジアムは様々な面で限界を迎えつつある。今回示された方向性を踏まえ、今後も関係者と議論を重ねながら、鹿児島のサッカーの未来につながるスタジアムの実現に向けて、クラブとしても真摯に取り組んでいく」とコメントしている。
テニスコートの移設が検討される県テニス協会の加覧伸一理事長は「海岸により近づくので、より風も吹く」と懸念を示しつつも、「継続的な意見交換やらせてもらえたら。より高いパフォーマンスを発揮できるような施設につながるよう精一杯協力していきたい」と協力姿勢を見せた。
現時点で鴨池庭球場はあくまで「絞り込まれた候補地」であり、正式な候補地としての決定は県との話し合いを経てからとなる。スタジアム整備の実現に向けて一歩前進した形だが、複合化の断念による収益モデルの再構築、駐車場削減への対応、テニスコート移設後の環境整備など、詰めるべき論点は少なくない。
2036年の使用開始という目標に向けて、市・県・関係団体がどのように議論を深めていくか。鹿児島のサッカーの未来を左右するこの計画の行方に、引き続き注目が集まる。