事故で車いす生活→競技歴3年でパラカヌー世界選手権へ 元陸上自衛官の35歳が鹿児島から世界に挑む
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交通事故で頸椎を損傷し、車いす生活を余儀なくされた元陸上自衛官が、パラカヌーの日本代表として世界の舞台に挑む。鹿児島県日置市出身の下野勝也選手(35)が、8月26日からポーランドで開催される世界選手権に出場する。競技歴わずか3年ながら、6月のアジア選手権では4位入賞を果たし、着実に力をつけてきた下野選手。「まずは僕自身が結果を出すことが第一」と語るその言葉には、強い決意がにじんでいる。下野選手はもともと陸上自衛隊に所属していたが、2017年に交通事故で頸椎を損傷し、以降は車いす生活を送ることになった。リハビリの一環として車いすバスケットボールや車いすラグビーに取り組み始め、3年前にパラカヌーへの挑戦をスタートさせた。
パラカヌーは、直線200メートルのコースでタイムや順位を競う競技だ。障害の程度によって3つのクラスに分けられており、胸から下が動かせず体幹に力が入らない下野選手は、最も障害が重いクラスに分類される。
その分、艇に乗るための工夫は欠かせない。シートやパドルは自身の体に合わせて細部までこだわり抜いており、「このベルトだけでは倒れるので、自分で作ったクッションを支えにして体を安定させている」と下野選手は話す。市販の用具をそのまま使うのではなく、自ら試行錯誤しながら最適な環境を整えてきた。
車いすラグビーの選手時代から、東京の企業にアスリートとして雇用されている下野選手。経済的な基盤を持ちながら鹿児島を拠点に活動を続けている。
カヌーの練習は、自宅から片道1時間半かけて伊佐市のカヌー場まで出向いて行う。小学生から高校生までの選手たちと一緒にパドルを漕ぐ環境のなかで、腕の筋力を中心に鍛錬を積んでいる。自宅ではパドルで水をかくために必要な腕の筋力を強化するトレーニングにも励む。
指導にあたるのは、パリパラリンピックでパラカヌー日本代表監督を務めた枦木駿コーチだ。枦木コーチは下野選手についてこう語る。「上のレベルにどうすれば届くのかというチャレンジを常に考えているのが選手としての魅力」。競技歴の浅さを補うかのような探求心が、指導者の目にも光って映っている。
今シーズンの大きな成果が、6月のアジア選手権での4位入賞だ。競技歴3年という短いキャリアながら、アジアの舞台で上位に食い込んだことは、下野選手にとって大きな自信となっている。「自分の漕ぎに自信を持って世界選手権へ臨めたら」と本人も語っており、精神的な充実ぶりが伝わってくる。
8月26日から30日までポーランドで行われる世界大会は、下野選手にとって2度目の世界選手権の舞台となる。前回の経験を踏まえながら、今度はより上位を狙う。
「まずは僕自身が結果を出すことが第一なので、結果を出さなければ誰も見てくれない。世界選手権で結果を残して鹿児島にパラカヌーがあることを知ってもらえたら」
この言葉に込められているのは、個人の勝利だけを目指す姿勢ではない。鹿児島という地域でパラカヌーという競技が根付いていくことへの願いが、その先に見えている。伊佐市のカヌー場で小学生や高校生と一緒に漕ぎ続ける日々は、地域スポーツの未来とも確かにつながっている。
日置市出身の35歳が、ポーランドの水面に鹿児島の名を刻む瞬間を目指す。